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南画入門講座4 実技練習編


 ここまで線の引き方と、水墨の濃淡の調子について学んできましたので、今度はその技法を使って実際に描いてみましょう。といっても、ここでは基本的な練習を行います。南画の基本的な練習法は手本を見て描く「臨摸」と実際の対象を鉛筆でスケッチする「写生」が主体となります。

四君子を学ぶ


 四君子というのは、四つの植物、すなわち蘭、竹、梅、菊をいいます。この四つの植物を「君子」と呼ぶのは、これらの植物の生態と人間の尊ぶべき儒教的な精神性とが結び付けられた結果ですが、そのことについては別な機会に譲ることとし、ここでは実技の練習について説明します。

 南画では昔から線を練習するのに四君子の手本を教材として使いました。それは、四君子の描法の中に南画で学ぶべき基本的な運筆法と用墨法がすべて含まれているからです。先にあげた、直筆と側筆、蔵鋒と露鋒、抑揚と濃淡、速度、順筆と逆筆、付け立てと鉤勒、潤筆と渇筆などの描法が四君子を学ぶことで自然に身に付くようになっているからです。ですから南画を学ぶには四君子から入るのが最も適しているのです。

 本来は四君子を本格的に練習して線を自由に描けるようになってから他のモチーフに進むのがよいのですが、毎日毎日、四君子の練習ばかりでは飽きてしまいます。他のモチーフにも挑戦しながら、四君子も少しずつ勉強を進めていくといいでしょう。

 といっても、四君子のお手本がなければ実際にどのように描いていいかわかりません。指導してくれる先生がいれば先生にお手本を描いてもらうのがいいのですが、独習の場合は手本を探すしかありません。最も適した手本が次に説明する『芥子園画伝』(かいしえんがでん)です。

 谷 文晁「菊図谷文晁 「菊図」


教本『芥子園画伝』


昔から南画の独習に使われてきた教本に『芥子園画伝』があります。

 これは中国清時代にまとめられた美術書で、文人画を学ぶ人々のために画の知識と画法を示したもので、歴代の名家の作品の模写が集められています。「山水」「蘭竹梅菊」「花卉れい(令偏に羽)毛」「人物」の4集があります。日本語にも翻訳されています。

特に「蘭竹梅菊」編は四君子を勉強するのに最適の手本になります。現在は古書店などで入手可能です。また、印刷はよくありませんが中国語版が『芥子園画譜』(全4巻)として出版されています。これは中国書籍の専門書店などで入手が可能と思います。

 『芥子園画伝』の「蘭竹梅菊」編をお手本にすれば四君子の正しい描法を学ぶことができます。しかし、『芥子園画伝』は本来が版画なので、水墨の自然の濃淡がうまく出ていませんから、その点は参考程度にするといいでしょう。また、中国版『芥子園画譜』はモノクロ版で墨の濃淡と色彩については参考にできません。
「芥子園画伝」

 

手本による練習(臨摸)


南画の勉強は、昔は手本と粉本(ふんぽん)による臨摸方式が中心でした。師が描いた手本や先人の作品の模写(粉本)を見ながら写すとういう方法で描き方を学んだのです。

 初めのうちは手本がないと描き方がわかりませんから、線の練習には手本から入るのがいいでしょう。先にあげた『芥子園画伝』の「蘭竹梅菊」編には四君子の手本と描き方の解説がついていますから、独習には最も適しています。

しかし、入手が難しい場合は、画集などに載っている古画の中で複雑でないものを選んで手本とし模写するのがよいでしょう。四君子以外にもさまざまな画が手本となります。この方法も画の上達に力を発揮します。本来は実物の絵を模写するのが最もいいのですが、現在の印刷は大変精度が高いので、手本として十分に使えます。
蘭手本

バラ手本

 

写生(スケッチ)をする


 手本の臨摸も大切ですが、現代南画では写生(スケッチ)のほうを重視します。手本は描き方の練習や勉強には適していますが、創作には直接役に立ちません。手本をそのまま作品にしたのでは単なる真似になってしまうからです。手本で勉強した描き方を自分の創作に生かすのです。

 絵が上達する近道は写生をたくさんすることだといわれています。写生をするとどうしても対象の細部までよく観察することになりますから、形態の微妙な変化を正確につかむことができます。花や植物などの生き生きした姿は、よく観察すると、ほとんど微妙な曲線の変化によるところが多いことがわかります。これを正確に写し取れるように何度も写生を繰り返すことが大切です。

 写生は鉛筆で行います。2B〜5Bぐらいの芯の軟らかい鉛筆がよいでしょう。最初のうちは正確に写すことは難しく感じられますが、何度もやっているうちに次第に上達してきます。

 洋画のデッサンは光と影によってできる形態を面として把握して表現しますが、日本画の写生は線によって対象の生き生きした姿を写し取ることが主眼です。明暗の調子は鉛筆で克明に描くよりもむしろ彩色によって表現する方が実際の役に立ちます。彩色は顔彩や色鉛筆、水彩絵具などで行います。

 また、写生の対象は特別なものを用意しなくても構いません。身の回りにあるものでいくらでもできます。たとえば冷蔵庫の中に入っている茄子でもかぼちゃでもシイタケでもアジの干物でも、食器棚にあるコップや茶碗でもいいのです。要は写生を数多くすることです。

 写生に慣れてきたら、写生したものを実際に作品に描いてみるといいでしょう。鉛筆と筆の違いもあり、写生がそのまま絵になるわけではありませんが、対象物の曲線のカーブの具合や、植物であれば葉と茎の接合部の微妙な形態や花の形の曲線など、実物のもつ生き生きした姿を絵に生かすことができるようになり、よりリアリティーの高い作品になります。

玉ねぎ写生

赤カブ写生


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